箱崎桃にはヒミツがある



 貢の治療はまったく痛くなかった。

 そりゃそうだな、と治療が終わって冷静になった桃は思う。

 こんな高そうな歯医者に来て、痛かったら、セレブの方々が文句言うよな……。

 治療費を払い、次の予約をする。

 三日後だ。

 三日後までにインドに修行に行って、なにかをすごく鍛えたり、なにかを昇華したりしたら、来なくていいことにならないだろうか、と思いながら、桃は診察室のドアを振り返ったが、開くことはもうなかった。

 待合室は他にもあるらしく、診察室へのドアもひとつではなかったから、そちらから別の患者が入ったのだろう。
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