千歌夏様‥あなたにだけです。〜専属執事のタロくん〜
千歌夏様‥あなたは美しいです。
それからさらに5年後‥ 

タロくんは、私の‥

タロくん‥

ドタンッッ‥!

「‥イタァ‥」

ガチャ

「おはようございます、千歌夏様。
今日から、高等部進学おめでとうございます。」

私がベッドから転げ落ちた瞬間‥ドアが開いて私専属執事のタロくんが入ってきた。

「タ‥タロくん‥」

「ち、千歌夏様‥どう致しました?」

こんな晴れの日に‥
ベッドから落ちて床に寝転ぶ私を見下ろしながらタロくんが驚いた表情をしている。

「な、何でもない‥わ‥」

そう言って立ち上がろうとした瞬間‥

フワッ

「‥え‥」

私はタロくんの腕の中でお姫さま抱っこをされていた。

な‥な‥な‥何‥?!

身体が一気に熱くなっていく‥
どうしよう‥恥ずかしい‥タロくんに‥私‥
抱っこされちゃってるわ‥‥っっ

ストン‥

「千歌夏様‥学校に遅れてしまいますよ?」

タロくんは、私を鏡の前に座らせると爽やかにニコッと笑い、私の髪の毛をいつものように優しい手付きで梳かしだした。

ドキ‥

夢の中のタロくんと同じ‥

「‥わかってるわ」

さっきのドキドキをタロくんに知られないように‥
普通にしていないと‥
鏡越しにタロくんをチラッと盗み見る。

「‥千歌夏様、どうしました?」

「えっっ‥何が?」

「先程から、何かありそうなお顔をしています。」

「‥な、な、何でもないわよ!」

‥またまた急に恥ずかしくなってしまう。
なぜ?
どうして‥こんなに恥ずかしいの?

「‥そうですか、失礼致しました‥
今日もいつもの髪型でよろしいですか?」

「‥う‥ん」

私は‥この髪型が嫌い‥
だって‥顔が全開になって全てみえてしまう。
誰も私の顔なんて‥見たくないだろうに‥

そう言ってタロくんは慣れた手付きで私の髪を綺麗に結っていく。
腰まで伸びた私の髪の毛が綺麗な編み込みになった。

「さぁ‥できましたよ、今日もお綺麗です。」  

タロくんは、いつも私にそう言ってくれる。

「‥タロくん‥ありがとう」

「では、お仕度をなさって下さいね‥私は朝食の準備をして参りますので‥。」

「‥うん」

タロくんは、そう言っていつものように部屋を出ていった。

「はぁ‥何だか‥疲れたわ‥」

最近の私はおかしい‥
タロくんと一緒にいたいのに‥一緒にいると恥ずかしくなったり‥息が苦しくなったりして‥もう一緒にいたくないって思ってしまう‥。
タロくんが大好きなのに‥。

ふと‥鏡の中の私を見つめる‥

「‥ブス‥」

もっと綺麗な顔に生まれていたら‥
もっと愛らしい顔立ちをしていたら‥
そしたら‥きっとお父様もお母様もお兄様達も‥
学校のクラスメイト達も
私を愛してくれたのかもしれない‥

「‥はぁ‥」

思わずため息を付いてしまう。
きっと‥タロくんも‥
私が美しかったら‥愛してくれるかも‥
いえ、違う‥
彼は、私の専属執事‥。
私の側にいてくれるのは執事だから‥。
それ以上でも以下でもない‥。

コンコン

「千歌夏様‥どうかされましたか?」

ハッッ‥

タロくんの声で我に返り時計に目をやると‥
そろそろ8時になろうとしていた。
ま、マズイわっっ!
タロくん‥私が朝食に来ないから様子をみにきたんだっっ!
どうしよう‥まだパジャマ‥

「千歌夏様?」

ヒーッッッどうしましょっ?!
こんな姿‥見せられないわっっ
ど、どうすれば?!

「入ってもよろしいですか?」

「千歌夏様?大丈夫ですか?入りますよ。」

「ま‥」

待ってっっ!

そう言う前にタロくんが入って来た。

バサッ

私は思わずベッドに潜り込んでしまった。

「千歌夏様‥体調でも悪いのですか?」

「‥‥‥‥」

「千歌夏‥様?」

体調が悪い‥そう言ったら‥
もう学校に行かなくてもいいのかしら‥
そうね‥私が学校に行っても誰も喜ばないし‥。
きっとまた、高等部でも友達ができない‥。
私はいつも一人ぼっちだった。
私がもっと奇麗だったら‥
明るく周りと話ができたなら
皆‥私を好きになってくれたのかしら‥。
そしたら‥愛してくれるのかしら?

屋敷の人達は、私を化け物でも見るような顔で見る。
お兄様達は今まで一度も私と遊んだり笑いかけてくれたことがない。
お母様もお父様も私を一度も抱きしめてはくれなかった。
私は生まれつき嫌われている。
ブスな上に何をしてもダメだから。
どこにいようと私は一人ぼっち‥。
きっと‥誰も私を好きにはならないわ。
もう‥部屋から出ないほうがいいんだわ‥。

私の何がいけなかったのだろう‥。
私は‥
私は‥
生まれて来なければよかったんだわ‥

頭がクラクラする‥
本当に気持ちわるい‥わ。
涙が止まらなくなる。

「う、う‥う‥‥う」

バサッ

勢いよく布団を剥がされる。

ギュッ‥

温かい大きな胸‥優しい手‥
優しい温もり‥

「千歌夏様には‥私がいます。」

ゆっくりと顔を上げるとタロくんの優しい顔があった。

そうだったわ‥
私にはタロくんがずっと側にいてくれるって約束してくれた。
私の専属執事として‥。

「大丈夫ですよ、さぁ千歌夏様‥お仕度しましょう。」

そう言ってタロくんは、優しく笑って立ち上がった。

え‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

「‥タロくん?」

「はい?」

「え‥タロくん‥何それ?」

「え、なんでしょうか?」

タロくんは、いつもの爽やかな笑顔を私に向けている。

「いや、だから‥なぜタロくんが私の高等部の制服を着ているのかしらって‥思っているのだけれど‥?」

「ああ、その事ですか‥ご報告が遅れてしまい‥申し訳ありません‥今日から私も千歌夏様と同じ高等部に通うことになりました。」

相変わらずタロくんは、私に満面の笑顔を向けている。

「え?!だって‥タロくん‥今‥21歳よね?」

「はい‥ですが‥もう一度、高校で学んでみるのもいいかと思いまして‥千歌夏様のお世話もよりお近くで、できますし‥ね。」

ね‥っっ?

「はい、これからは、ずっと千歌夏様のお側にいます。安心して学校に行って下さい。
‥お喋りはこの辺にして早くお仕度しませんと、初日から遅刻ですよ。」

ハッッ‥そうだっっ!

私は急いで仕度をして送迎車に乗り込んだ。

バタン‥

「いってらっしゃいませ‥千歌夏様」

タロくんがいつものように黒塗りの車のドアを閉めた。

「え、あれ‥タロくんは?」

タロくん乗らないの?

思わずタロくんに声をかける。

「私は‥歩きますので‥千歌夏様と同じ車に乗るわけにはいきません。」

「えっっ‥」

その瞬間‥車が動き出す。

「いや、止めて!!」

バタン‥

「ち、千歌夏様‥」

「タロくんが乗らないなら私も乗らないわっ。」

そう言って私は車から飛び出すと強くタロくんの腕を掴んでいた。

タロくん‥
一緒にいてほしい。


















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