呪イノ少女、鬼ノ少女
締め切られていた戸を開きながら、二人は家の中を進んでいく。

そうしなければ、まず明りが無くて足下もおぼつかなかったし、何より家の中が蒸し風呂状態な上に黴臭かったからだ。

こんな澱んだ空気の中に小一時間もいれば、病気にでも罹ってしまいそうだった。


一応電気が無いか探してみたのだが、さすがにこんな山の中まで通っているはずも無く、何気なく開いた和室には以前使われていたらしい行灯が転がっていた。


立て付けが悪くなった木戸を開くと、その度に裏手の森から澄んだ夏の蒸し暑い風が入り込んで来て、二人の髪を揺らした。

まあ、蒸し暑いといっても、この家の中のこもった空気よりはマシだ。


「お父さん、よくこんな所に住んでたなぁ。私なんかちょっといるだけでも嫌になったよ…」


電気が通っていないということは、クーラーはおろか扇風機なんて洒落たものはない。

どうやって夏を凌いでいたのだろうか?


「最初から無いんだもの。別に無くたって生活できるものなのよ」

「そうなのかなぁ…」


どうも、九音の言う事に納得がいかなかった。

絶対困るに決まっている。

クーラーや扇風機だけではない。

テレビも冷蔵庫も、洗濯機も無いのだ。

澪には、父の送っていた生活をしてみろ、なんて言われても到底無理なことのように思えた。


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