呪イノ少女、鬼ノ少女
「で、そのたまに見る度に怪我が酷くなってったから、苛めがエスカレートしていったんだと思うっす。それで夏休み前ぐらいから、学校に行くの止めたみたいです」


澪は大和の話を聞いて、茫然自失、何を言ったものかと言葉を失っていった。

話している方の大和も、辛そうに瞳が歪められている。


九曜家の玄関には、良く晴れた夏の朝だというのに、どんよりと暗く渇いた空気が満ちていた。


「でもどうして雛ちゃんが?」


「俺もそこまでは…。その、苛めを受けてるのもホントか分かんないですし…。あいつ、茜さんにも何にも言わないから」


やはり、家族にイジメを受けているとは言いにくいのか。

それとも、強い心を持ち合わせているからこそ、一人で抱え込んでしまっているのか。


その辺りの判断はつかないが、澪は胸の奥に酷い気持ちの悪さを覚えていた。


「澪さん、その…雛子の事頼みます。俺はしばらく用があって村を離れないといけません。…茜さんはあんなだから、雛子を助けてはやらないと思うんで…。澪さん、お願いします」


そうして大和は深く頭を下げた。

自分の事でもないし、言われるまでも無いことだというのに。


何故そうまでするのか、大和の真意が澪には皆目見当がつかなかった。


「もしかして、雛ちゃんが好きなの?」

「えっ!?いえいえいえいえ!好きだなんて、そんなのとんでもないことっすよ。そう……そういうのとは少し違うんスよ」



しんみりと声のトーンを落とした大和は目を細め、雛子に蹴られて赤く擦った頬を指でゆっくりとなぞった。


澪にはその時、大和の目に浮かんでいた感情の正体が何かは読み取れなかったが、彼が雛子の事を何よりも大切に思っていることだけは感じられたのだった。



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