雨の巫女は龍王の初恋に舞う
 ということは、夫婦の契りはなかったということだろうか。けれどそこに所有の印があるということは、いずれはそうなるという龍宗の意思の現れなのかもしれない。秋華は、昨日は陛下もお疲れだったし、と納得しかけて、ふいに気づいた。



「あの、璃鈴様は十六歳になった日にここへと発たれたのですよね」

「ええ。そういえば、あの夜はみんなでお祝いをしてくれるはずだったのに、残念だわ」

 つい一週間ほど前の事なのに、もうすっかりと昔の事のような気がする。懐かしく思い出す璃鈴とは反対に、秋華の顔が青ざめた。

「あの、失礼ですが、長老様から皇后の、というか、房の講習については……」

「受けないまま来てしまったわね。でもなんとかなったから大丈夫よ。私たち、無事に夫婦になれたわ」

 実はなんとかなっていないことを、璃鈴は知らない。秋華は頭を抱えた。
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