冷徹旦那様との懐妊事情~御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない~
そこで目にしたのは、彼女が同僚たちと連れ立って、夜の町に消えて行く姿だった。

和泉と付き合ってるときは門限が厳しいため、仕事帰りに飲みに行くことは滅多になかった。それなのになぜ。

奈月は笑顔で、和泉との別れにダメージを受けている様子は見られなかった。

長く働いたあとに遊びに行く余裕があるのだから体力的にも精神的にも充実しているのだろう。

和泉の方は夜も眠れないほどダメージを受けているというのに。

声をかけることは出来なかった。

突然の別れに特別な事情なんて無かったのだ。ただ心が離れただけ。

心変わりに気付かなかったのは情けないが、奈月は和泉が思っている以上に強かな面を持っていたということだろう。

どんなに仲が良い恋人だったとしても、別れがやって来る可能性はある。

それは分かっていた事実だけれど、自らの身に降りかかるとやりきれなかった。

新しい道を進み始めた奈月に未練はないだろうが、和泉は未練の塊で冷静さを装っても、どんなに強がっても失恋の痛みは胸の奥に燻っていた。

それはだんだんと和泉を蝕み、裏切った奈月への怒りと恨みに代わって行った。

美しい思い出になど出来ずに、暗く淀んだ想いが募っていく。

許せない。湧き上がる負の感情が和泉の精神を蝕んでいくかのようだった。
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