冷徹旦那様との懐妊事情~御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない~
「いや、せっかくだけど今日は帰るよ」

「……そうですか」

迷う様子もなく断られ、奈月は肩を落とした、

(私……がっかりしている)

胸が高鳴りまともな会話が出来ていないし、気恥ずかしさがで居たたまれない一方で、彼ともっと話したいと思っている。

なんとも矛盾した感情。

落胆している奈月に、和泉は更に声をひそめ、まるで囁いているように告げる。

「でも次の約束をさせて貰えるか? 奈月さんの都合のよい時間を知りたい」

「え……約束……」

「ああ。そうだな明後日はどう? 何時なら空いてる?」

彼の距離が近いのも、囁き声なのも他の客が来たときのことを考えているからだろう。そう分かっているのに、頭に血が上ってしまったように冷静さを失ってしまう。

「明後日は……午後一時すぎからなら大丈夫かと」

シフトを思い浮かべなんとか答えると、和泉はとても嬉しそうに微笑んだ。

「分かった。その頃に来るから」

彼はそう言い残すと、踵を返しギャラリーを出て行く。

すらりとした長身、ぴんと伸びた背筋の凛とした後ろ姿を見送ると、奈月は緊張から解放されたように大きく息を吐いた。

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