冷徹旦那様との懐妊事情~御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない~
「……申し訳ありません。今日はもう休憩を取ってしまったんです」
「えっ、もう?」
和泉は驚きの表情を浮かべたあと、時計に視線を向ける。
時刻は正午。広川堂は午前十時の開店だし、前回は休憩に入っていなかった時間なのでまさかもう休憩済とは思わなかったのだろう。
実際はそれ程珍しい訳じゃない。開店は十時でも従業員は八時三十分に出勤しているし、客足の状況やパートのシフトの都合で変動するから。
「はい。せっかくお誘い頂いたのに、申し訳ありません」
頭を下げて謝罪をすると、和泉は慌ててそれを止めた。
「謝らないでくれ、突然来た俺が悪いんだから」
「ですが……」
「……少しがっかりしただけなんだ。奈月さんと話すのを楽しみにしていたから」
和泉は奈月の目を真っすぐ見つめながら言うものだから、落ち着きかけていた心がまた騒めきはじめた。
(どうしていちいち舞い上がってしまうの? 楽しみにしていたって言うのは多分社交辞令なのに)
真に受けて大きく反応してしまうのは、きっと経験の少なさからだ。
「あの、器のお話ですよね? 和泉さまがよろしければ、今させて頂きますが」
これは仕事なのだ。そう自分自身に言い聞かせる為にも提案してみた。
しかし和泉は首を横に振った。