崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
 アイリスはその男を見上げたまま、片眉を上げる。

「呆れてないの?」
「驚きはしたな。いくらあいつがひょろひょろしているとはいえ、男を吹き飛ばす程の力で殴る女を見たのは、生まれて始めてだ」

 大真面目な顔で頷いて答える男を見ていたら、なんだかおかしくなってきた。

「今のことを秘密にしてくれたら、あなたがここでこっそりと休憩していることも黙っていてあげるわ」
「ほう?」

 上質な黒い衣装から判断するに、この男はかなりの高位貴族だ。顔つきは鋭さがあるものの整っており、服の上からでも引き締まった恵まれた体躯をしていることが予想できる。
 きっと、次々に寄ってくる周囲の貴族から逃げるためにここにいるのだろうとアイリスは判断した。

 一方の男は、面白いものでも見つけたかのようにアイリスを見返す。
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