呉服屋王子と練り切り姫
「なんであんなこと言ったんですか!」
「あんなことって、なぁに?」

 私は連れてこられた社長室で、彼に怒鳴り散らしていた。

「店の和菓子全部買うってことですよ!」
「ああ。あれは、店先で騒いじゃったお詫び」
「はぁ?」
「それだけで足りなかったら、もっと出すから」
「何を言って……」
「あのね、世の中結局お金なの」

 私の言葉を遮って、陽臣さんは続けた。

「愛だの情だの言うけどさ、つまるところお金なんだよ。キミの友達だって、ずっと僕にくってかかってきてたわりには、全部買うって言った瞬間に目の色変えただろ? それに、僕はこうしてキミをここまで連れてこられた!」
「それは、玲那だって気が動転して……」
「キミは身を以て体験したっていうのに、まだ愛だの情だの信じるんだ?」

 有無を言わせぬ物言いに、私は押し黙った。

「キミだって甚八じゃなくて僕を選んだ。甚八よりもハイステータスな僕といっしょにいる方が、自分にとって得だって思ったんでしょう?」

 陽臣さんは私に微笑む。

「陽臣さんは、どうしてそこまで私に……」
「最初に言ったでしょ? キミは、わが社の幸運の女神なんだって」

 その時、社長室に控えめなノックの音が響いた。陽臣さんはさっと私の横に並んで腰を抱くと「どうぞ」と言った。
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