呉服屋王子と練り切り姫

将太君の新作

「ねえ、将太君……」

 朝の着替えをちゃっちゃと済ませ、厨房の入口で彼を待った。現れた彼に声をかけると、将太君は満面の笑みを浮かべる。

「愛果さん、よかったっすね! うまくいってるみたいじゃないですか」
「そんなんじゃないよ。ただ、そこで会って一緒に来ただけ……」
「それでも、一緒に来るって選択肢! すげぇじゃないっすか。……まぁ、愛果さんあんなに必死に愛を説いてましたからね、当然っちゃ当然かぁ」

「羨ましい~」なんてはやし立てながら厨房に入っていこうとする将太君を、私は呼び止めた。

「あのね、お願いがあるんだけど」

 将太君はピクリと肩を揺らしたけれど、振り返った彼の顔はいつもの笑顔のままだった。

「なんすか? 愛果さんからのお願いなんて俺が受けたら、あの人妬いちゃいますよ?」

 将太君はわざとらしくそう言った。
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