呉服屋王子と練り切り姫
「お前と同じ部屋で寝るのは、初めてだな」

 私をシーツに縫いとめた甚八さんはそう言った。その一言に、急に頬が熱を上げる。

「や、やっぱり帰りません? ほら、甚八さんの部屋すぐそこだし……」
「嫌か?」

 そう言って私を見下ろす甚八さんの熱をはらんだ瞳。それが、どこかさびしそうな少年のようにも見えて、私は思わずふいっと視線をそむけた。

「べ、別に嫌じゃないです! けど……」

 私がそう言うと、不意に甚八さんの唇が私の頬に触れる。それはちゅっと音を立てて私から離れていった。

「まあ、嫌だと言われても困る。返品不可だ」

 甚八さんはそう言って、今度は私の唇に口づけた。そのまま、彼の熱に浮かされ、熱い夜の甘い時間が過ぎて行った。
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