嫌わないでよ青谷くん!
「取り繕った笑顔とか、薄っぺらい話し方だとか、そういうの、ウザいんだよ」



 容赦ない言葉が直子の身体を切り裂いていく。



「誰とも仲良くしてる自分が偉いと思ってるわけ? 最初に俺に話しかけてきたのだって俺のこと値踏みした上でだろ」



 まるで鉈だ。コンパクトでありながら重量がある為切れないはずのものも切ることもできてしまう。これほど悪意を全身に浴びたことなどなく、脳がついていかない。体だけ時間に引き摺られている。

 耐え切れずに涙で視界がぼやけていく。


 青谷は直子の表情など興味ないとでも言うように淡々と書類を片付けていく。直子は何もする気が起きず、結局全て青谷が拾い集め、ロッカーに押し込むこととなった。

 仕事は終えたと再び勉強に戻ろうと青谷は椅子に腰を下ろす。しかし、ふと、熱量を持たない雰囲気で青谷が振り返った。そして少しためらった後、頭を下げたままの直子に口を開いた。



「でも、着飾ってない馬鹿な山崎さんのことは、結構好きだよ」



 文字を、一粒一粒、噛み砕く。「結構好きだよ」それはいったいどれくらいの質量を持っているのだろう。先程の悪意に満ちた言葉とはあまりにもかけ離れており、考えれば考えるほど、頭を巡る神経がぐるぐると絡まって取れなくなる。

 結局、何と返せば良いのかもわからず、筆箱片手に帰るしかなかった。頭の中は、青谷の言葉だけが渦を巻いて支配していた。
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