響は謙太郎を唆す

「ごめんなさい」

と響は赤くなった。

「私がそれじゃぁ付いてきちゃうから余計だったね。でも私抜きでもワンルームは借りれるよ⋯⋯ 」

一緒に歩きたい。
この先も。
そんな約束がない謙太郎と響だったんだ。
付き合ってもいない。

なのに、共に過ごす未来を当たり前のように描いて、自分を押し付ける。
響も列車を用意して、謙太郎を乗せようとしたんだ。
乗って欲しいんだ、と思った。

謙太郎は、響のあっさりと簡単に答えたその内容に、グズグズ悩んでいた自身の闇に、パッと一瞬で光が射したように感じた。

響に知られたくないと思うような優柔不断な自分の姿だったのに、事もなげに一言で、力が満ちて開けて、『どうにかなる』と思えた。

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