誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします


お兄ちゃん……新さんに嘘を吐かれて信じてしまった私も私だけど。
弱いところに付け込まれた気がして、腹立たしい。
第一、シンお兄ちゃんのフリをすることに何のメリットがあるというの?


「あいつ……兄貴は、俺のものが欲しいだけなんだよ」

「律さんのもの?」

「昔からそうなんだ、オモチャでも自転車でもゲーム機でも何でも」

「そんな、ジャイアンじゃあるまいし」


咄嗟に茶化してしまったけど、律さんは表情を変えず小さく首を振った。


「ジャイアンよりタチが悪い。なんせ物だけじゃなく、人間もだからな」

「人間も?」

「学校の先生も友達も、俺と仲が良いと分かった人間を徹底的に潰そうとする。実際、兄貴のせいで社会的に抹消された人もいる。だから俺は誰とも深く付き合わないと決めている」

「それって……」

「百花もそうだ。兄貴には百花と利害関係が一致したから結婚したと伝えていたが、接近したよな。だから、割り切った夫婦のフリをした。仮面夫婦だと分かれば、興味がなくなるだろうから」


そう、だったんだ。
だから、あんなにもお兄さんに近づくなと言っていたんだね。


「最初からそう言ってくれれば、」

「知らない方が良いこともある。百花が俺のことを思い出せないなら……それはそれでボロが出なくていい」


< 86 / 102 >

この作品をシェア

pagetop