王子なドクターに恋をしたら
会計を終えて叶ちゃんを気遣いながら病院を出ると微かに耳に飛び込んできた名前。

「え?千雪さん!?」

「ちゆき…?」

つい辺りを見回して、見知った顔を見つけて僕は叶ちゃんの事も忘れて咄嗟に來翔を抱いたまま走り出した。

「聡子さん!」

「あ、和泉さん」

「いま、千雪って言いました?」

「あ、そうなの、一緒に来たんだけど用事があるって急に行ってしまって…」

「ちょっと、來翔をお願いします!」

話し半分で來翔を押し付け聡子さんの視線の先を走り出した。
聡子さんが今日来ることは聞いてたけど、千雪が一緒に来るなんて聞いてない。
昨日千雪と電話をしてもそんなそぶりは無かった。

あんなに逢いたかった、なのに今は逢わない方がいいなんて思ってたのに衝動的に走り千雪を探し、ゆっくり足を止め立ち止まるその背中をすぐに見つけて僕は叫んだ。

「ちゆっ!千雪!」

逃げようとする千雪を捕まえて安堵でため息が漏れた。
うだうだ考えてたのが嘘のように逢えたことが嬉しくて抱きしめると安心して、胸の奥がぎゅっと掴まれたように苦しかった。

きっとここに来るまで不安だっただろう、泣かせてごめん。
必至に声を抑えて泣き続ける千雪を抱きしめ僕も泣きそうになった。

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