王子なドクターに恋をしたら
エレベーターが開きみんなは飛び出すように走り出す中、僕は千雪を見つめ突っ立っていた。

「和泉くん?」

紘子さんに呼ばれ、今その呼び名で呼ばないでくれとイラッとしながら「すいません、先に行っててください」と言うと、今度は幸田先生の怒号が飛ぶ。

「おい!彼女に気使ってる場合じゃないぞ!」

「ちょっとくらいいいでしょう!」

珍しく大きな声を出す僕にみんなびっくりして立ち止まった。
だけどそんなの気にしてられない。
僕にとっていま重要なのは千雪の事だ。

「和泉くん、行って。一刻を争うんでしょ?」

「ちゆ…さっきの、見てた?」

「何の事?ほら、早くしないと」

千雪は惚けた顔で笑ってるけどその目は悲しみにくれている。
僕には嘘だとすぐにわかった。

「患者さんが待ってるんでしょ?和泉くんが助けないと!」

「ちゆ…」

「あたし、おうちで待ってるから。…大人しく待ってるから、早く行って」

心配ないと笑い背中を押す千雪に言いたかったことを飲みこんだ。
振り返ったポケットから鍵を出すと「必ず帰るから家で待ってて」と言い残し、僕は走り出した。
僕は医者だ、千雪の言った通り一刻を争う、患者を待たせるわけにはいかない。
待ってると言った千雪を信じて僕は頭を切り替えた。
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