王子なドクターに恋をしたら
「和泉くん待って」

「もう、話すことなんてないでしょう」

「待って!行かないで和泉くん!」

行こうとする僕に紘子さんが抱き着いた。
これ以上話してもどうにもならないというのにまだ追いすがるのか?どう話せばわかってくれるのだろう。紘子さんの行動にため息が出る。

「お願い、待って…」

「紘子さん、僕はもう…」

「……ごめん、そうだよね。未練がましくてごめんね。うん…ちょっと取り乱しちゃった。先、行くね」

涙を拭いて先を行く紘子さんの背中を見つめ思わず舌打ちした。
本来僕はこんな煩わしい事は嫌いなんだ。
それでも僕にとって紘子さんは医者としても尊敬する人だ。冷たく突き放せない。
どうかこれで紘子さんの気持ちが切り替えてくれることを祈るばかりだ。

気を取り直してラウンジに戻ったら千雪がいなかった。
慌てて探したら一人エレベーターに乗り込んでるのが見えた。
強張った顔で僕を見上げるその姿に、もしかしてさっき紘子さんが僕に抱き着いた所を見てしまったかもしれない。
奇しくもオンコールで病院に急いで行かなくてはいけなくなり、みんなで乗り込んだエレベーターは重い沈黙に染まっていた。

< 301 / 317 >

この作品をシェア

pagetop