王子なドクターに恋をしたら
大野のお蔭で早く終わったからゆっくり帰ってもいいぞ、って言うお父さんに大野は遠慮なくそうしますと言ってあたしを連れ出した。

歩いて向かったのは海岸。
短い海開きに平日にも関わらず家族連れなどが海水浴を楽しんでいた。
でも夕方に差し掛かると急に風が冷たくなる。
ぽつぽつと引き上げていく人達を横目で見ながらあたしたちは海岸を歩いていた。

「わざわざあたしを誘ってなんで海岸?海に入るわけでもないでしょ?」

「え?まあ久しぶりだから歩きたかったんだ。一人きりじゃ寂しい奴だと思われるだろ?」

「別に気にすることないじゃない。一人で散歩してる人だっているでしょ」

そう言うと、肩を竦めて口を噤む大野にあたしは首を傾げる。
まあ、別にいいけど。

冷たい海風が気持ちよくてあたしも黙って歩いた。
見えてきたのはこの間和泉くんと話した海岸に降りる階段。
あの日の濃厚で短い逢瀬を思い出してあたしは甘酸っぱい気持ちで胸がいっぱいになっていた。

「なんで階段なんか見てる?普通海に来たら海見るだろ?」

「え?ああ、なんでもない!」

黙っていた大野があたしの顔を覗き込み突っ込んでくるから慌てて首を振って海を見た。
いけないいけない。一人ならまだしも大野と一緒に居る時に思い出すんじゃなかった。
あたしの顔は熱くてきっと赤くなってると思う。
大野は気付いてなきゃいいけど。
< 73 / 317 >

この作品をシェア

pagetop