お見合いは未経験
「もちろんですよ。よくぞ、うちの娘をもらってくれたと思います。」
という、当主の言葉はどこまで本音か…。 
そんなふうに貴志はつい、思ってしまった。
だからこそ続いていく言葉には、驚きを隠せなかったのだ。  

「まあ、結婚という慣習がある以上、家同士の繋がり、というのは絶てない、とは思います。でも、家を継ぐことに汲々する必要はもうないでしょう。」

私の健在のうちに会社も手放そうかと思っている。
という小笠原家の当主の発言。
爆弾発言だ。

その場にいたほぼ全員が、はぁ?!となる。

「初耳です。」
真奈がすぐにそう返した。
「うん。初めて言ったからね。お見合いをする、と決めた時に検討はしていた。まさかお相手が榊原家とは思っていなかったしね。」

兄の目がキラキラしているのが貴志に見えた。
またあんな子供みたいな顔をして…。

「もう、お身請け先はお決まりなんですか?」
「参入されますか?」
当主も笑顔だ。

「惹かれるなあ…。」
よもや、すごい場に居合わせているのではなかろうか。

父は貴広の経営判断には口を出さない。
「それ、今度僕がお伺いしに行ってもいいですか?」
貴広がにっこり笑って、当主に尋ねる。
「もちろん、どうぞ。」

まさか、このために今日の会を決めたんじゃないだろうな…。



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