お見合いは未経験
後日のトラスト本社の役員室内に、顔を出している貴志である。
本社ビル内では、ジャケットも脱いで、シャツ一枚で、仕事をどんどん進めていく、貴広だ。

今も、手元では書類を確認しながら、貴志と話をしていた。

「で、お話合いはされたんですか?」
真奈の実家の小笠原家のことだ。
「先日、水面下でね。結構感触は良かったかな。」

「小笠原家が事業を手離すなんて意外です。」
「今時、家だけで継いでいたら、事業を維持したり、大きくしていくことは無理だろ。選択肢の1つとしてはありじゃないかな?」

それ、あなたが言いますか?

「言っとくけど、僕は家だけじゃないと自負しているけど?」
「確かにそうですね。」  

「で、家だけじゃなくて、お前に検討をお願いした件はどうするのかな?」
自分にこの笑顔を向けられることは、あまり考えていなかったが、確かになかなかの圧だな。

貴志は眼鏡を押し上げた。
「すぐには無理ですが、お世話になります。」
「やった!いつから?」
「すぐには、辞めれないと分かっているでしょ。」

わざと嫌な顔をしても、貴広は全く気にした様子はない。

「だから、いつから?」
「この期末まで。」
「では、9月いっぱいだな。本当にいいのか?」
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