お見合いは未経験
しかし、上に立つだけあって人を見る目には優れていると成嶋は感じていた。
社長室をノックし、中に入る。

「成嶋くん。待ってたよ。」

仕事はもう、だいぶ慣れたようだね。との切り出し。
おかげさまで、と返す。

そんなことが聞きたいわけではないことは、お互い承知だ。
「何かというと、いわゆる転職のお誘いなんだが…。」
出向者を転職に誘うのは嫌うはずだが。

そんな成嶋の表情を読んで、社長が言う。
「うん、本来はいけないことなんだけどね。君の仕事を見ていて、個人的にこちらの方が向いているんじゃないかと思ったわけだね。」
成嶋も薄々は感じていた。

銀行では縛りがあることも、この会社なら自由に出来ることに、気付いてはいたから。

「だから、強制はしない。お給料も正直、スライドくらいしか保証できないし。でも、君のスキルは活かせるんじゃないかな。君、結婚してるんだっけ?」
「はい。」

「じゃあ、ご家庭のこともあると思うから、よく相談して。」
あと、うちは定年60だから、とおまけのように言われる。

成嶋は今、35歳だ。
銀行ならば、とっくに折り返しは過ぎていて、むしろ今後を考えなくてはいけない時期だが…。

あと25年……。
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