お見合いは未経験
貴志は支店長室のドアをノックした。
信託の支店長と、今までの窓口担当者の他、もう1人と真奈もいた。

真奈は今日は制服ではなくて、スーツを着て、名札をつけている。
そのきりっとした姿もいいな、と貴志の目がつい真奈に行ってしまいそうになる。

「失礼します。」
「おおー、榊原くんと成嶋くん!」
成嶋に向かって部下のように『くん』付けで呼んだ支店長に、貴志はくらりとした。
いや、だから成嶋は出向してて、他社の部長で今日は講師で、お前の部下じゃないって!
恥ずかしい態度を取るんじゃない。

しかし、もちろん顔には出さない。
「成嶋部長がお越しになりましたので、お連れしました。」
そう言って、貴志は薄く微笑む。

「そうか、成嶋部長、だったね。今日はお願いします。」
微笑んではいるが、笑ってはいない貴志の雰囲気を察して、支店長は改まった態度になった。
出来るなら、最初からそうしろと言うんだ。

「いいえ。こちらこそ。今、うちの部下に設営を準備させてますので。今日はお願いします。」
不躾で悪い……という貴志の視線に、成嶋は笑顔で応える。

「支店長、すみません。一応、うちの寺崎から事前にご連絡させて頂いているかと思うんですが、今日は最初にご挨拶いただいてもよろしいですか?」
「もちろんだよ。」
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