罪か、それとも愛か
その時かばんの中でスマホが震えた。
スマホの画面には母の名前が浮かび上がっている。
出なくても内容はわかる。
どうせ迎えに来れないと言うのだろう。
『ごめん!受け持ちの患者が急変したから迎えに行けない』
『六平(むさか)先生!』
『すぐ行きます!お迎えと夕飯は冬輝にお願いしたから!よろしくね!』
こちらが相づちを打つ間もなく、一方的に電話が切れた。
琴羽の両親は光英大学病院で医師をしている。
父の一条翔太(しょうた)は『世界の一条』と称される巨大グループの創業者一族で、現在は光英大学病院長を勤めながら時々大学で教鞭をとっている。
一方、母まことの実家は農業を営む、ごく普通の家庭だ。
体が丈夫といえない母は琴羽一人産むだけで生死をさまよった。だから琴羽は一人っ子だ。
そんな母は一条の嫁に相応しくないといつも周囲に責められていた。
だから医師として働く時は旧姓の六平を使っていた。