罪か、それとも愛か

今の電話も母の後ろで誰かが『六平先生』と呼んでいた。
琴羽にとって仕事中の『六平まこと』は母ではない。患者を治す医師だ。
だから、迎えの約束を違えても傷ついたりしない。

ーーきっと、一条家にふさわしくありたいママにとっては可愛げのない娘と一緒にいる時間より医師である時間が一番だろうし。

一条家に生まれた父も琴羽もその名に恥じぬように常に自分を律して生きている。どんなに辛くても逃げるわけにはいかないからだ。

だが、外から嫁に来た母はそれ以上に冷ややかな目で見られる。どれほど医師として結果を残しても一条家の嫁としては失格だと烙印を押される。

ーー私は恋愛結婚は絶対にしない。
相手をママみたいに一生苦しませるだけの結婚生活なんて、不幸にしかならないもの。
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