厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 それくらい深い眠りの中にいる私の元に、予期せぬ来訪者があった。


 御屋形様だ。


 しばらく本拠地に引きこもっていた私を恋しく思うあまり、会いたくてたまらなくなり。


 馬でなんと五時間かけて、山口の大内館から私の元までやってきたのだ。


 もちろん久しぶりに私と肌を重ねようと願っての訪問だが、折悪く私は強い薬を服用し、深い眠りの中だった。


 御屋形様がいくら呼んでも、目覚めぬほどの。


 「無理に起こしては気の毒かもな」


 御屋形様は逢瀬をあきらめ、私の枕元に和歌をしたためた紙を残し。


 再び五時間かけて館へと引き返していった。


 夜明け前の紫色に染まる空の下を。
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