厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「この筆跡は……!」


 朝になりようやく目覚めた私は、枕元の和歌に気づいて仰天した。


 流れるような美しい文字に、甘い言葉。


 御屋形様のものであることは疑いない。


 それにしても驚いた。


 御屋形様が馬で五時間かけて私に会いに来るなんて、まさに青天の霹靂だったし。


 呼びかけに気づかず眠りこけていた自分にも驚きだ。


 「御屋形様がいらしたというのに、なぜ起こしてくれなかったんだ」


 家に仕える者たちにまで、つい八つ当たりをしてしまった。


 だが御屋形様自ら、深く眠っている私を起こすのが気の毒と判断し、そのまま帰っていかれたのだから。


 家の者には罪はない。


 「夜露に濡れて地面に横たわる、夜のもみじのようなお前の寝顔はあまりに美しく、目覚めさせるのがためらわれた」


 そのような歌が描かれていた。


 御屋形様が私を、官能的な夜のもみじに例えてくれたことがとても嬉しくて、自然と怒りは収まっていった。
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