今夜はずっと、離してあげない。



……だけどそれは、ふれる前に落とした。


さわれない。ふれられない。




「……なんでも、ない、デス」




布団から出た右手はさむくて、すぐに引っ込めようとした。


……でも、




「……なあ、知ってる?」




するり、右手にあたたかいものが絡みつく。




「ヨトギって、退屈しのぎに物語を語って聞かせたり、夜通しそばに付き添ったりする意味があるらしい。……で、俺の名前、そんな人になってほしいって思いで付けたって、……だれかが言ってた」




あっためるように、一本ずつ、絡まっていく。


それに驚いて引っ込めようとするけど、ぎゅっと握られて離れない。




「……だから、氷高が呼んだ時は、そばにいる」




ふっ、と。
無表情が紐解かれて、やさしく淡い弧を描く。


……それが、重なった。

やさしい体温も、瞳も、表情も。




「……ありが、とう、」





────〝アカネさん〟




「……カヤ、」




喉まででかかった別の名前は、口の中でちがう名へと変換されて、せつなく淡い夜に溶けた。


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