今夜はずっと、離してあげない。
さよならの夜








─────今となっては、それが恋情だったのか、
はたまた依存だったのかは、到底知りえない感情だ。








生まれた時から、父さんと呼べる人はおらず、母子家庭で育った。


着実に大人になるにつれてわかってきたのは、俺と母さんが、なぜか父方の親戚筋に嫌悪されていて、なおかつ、母さんの親戚筋に疎まれていたことだった。



家はどっかの漫画みたいなオンボロアパート。

何もかもが新品などではなく、世間で言う貧乏人と呼べる者だったんだろう。



それに最初に嫌気が差したのは、俺ではなく、母さんの方だった。


俺が中学に上がったと同時期に、あまり家には帰らなくなった。それが、思えば前兆だったのだろう。




その次の年。俺が、中学2年に上がって少しした、4月の春。


母さんが、置き手紙と、預金通帳、それに母親がわりの人を置いて、姿を消した。





その日、俺は帰りたい場所を失った。


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