今夜はずっと、離してあげない。




母さんがおかしくなっても、俺はなにもしなかった。何も言わなかった。そのツケがこれ。

割り切ってしまえば、どうということはなかった。



その日、起きると母さんがいなくて。

あったのはテーブルの上にありきたりな置き手紙。


そして、そこに記されていたのは、保護者がわりの人の名前と住所、連絡先。

……それと。


〝ごめんね〟なんていう、月並みな一言だけだった。




涙は、出なかった。

あったのは、果てしないほどの虚無感と、やっぱり、という思いだけ。



同じ頃くらいだ。

千井と出会ったのは。



出席番号の関係で席が近かったため、俺の何に興味が湧いたのかはわからないが、しつこく話しかけてきた。


老若男女に好かれるタイプ。

個人的にあまり得意なタイプではなかったが、ある程度の距離感を保っている気がしたので、一緒にいる分は苦ではなかった。



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