今夜はずっと、離してあげない。



若干キレ気味の千住サマを、どうどうと宥めるフリをしていたけど、内心じゃ、ほんとに驚いていた。


もちろん、千住サマの口からマトモな言葉が出たことにじゃなくて。



……ただいま、って言うのを、わすれていたことに。


言われるまで気づかなかった。

わすれることはないと思っていた。
だって、大事なことだから。


ただいま、って口に出すと、笑顔が返ってきてくれるから。



……ああ、そういえば、最近おかえりも、おはようも、いただきますも、そういう当たり前であるハズの挨拶、口にしてたっけ。



ずいぶんと、ひとりだったから、かな。

挨拶を口にする相手がいなくなっちゃったから、なのかな。

わかんないや。


……けど、



「……ただいま言ったら、たべさせてくれます?」

「お前、ほんと食にだけは強欲だよな」



いまは、いまだけは、言ってもいいって。



「本日も無事、ただいま自宅に帰還してまいりました」

「いろいろ余計な修飾語入りすぎ」



呆れた顔で、それでも、とびきりのご飯を作って待ってくれている人がいるから。



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