御曹司、家政婦を溺愛する。
「中学の頃は、私の一言で隼人さんから離れていく女の子たちばかりでしたけど、高校の女の子たちは欲が深くなって、恋に恥じらいがなくなってしまうことがあるのよ。そんな彼女たちに私が何を言っても隼人さんを諦めてくれないから……私、父に何度か相談に乗ってもらったことがありますの。「美織から隼人さんを横取りしようとする女がいるから困っている」って。彼女たちは数日後には学校からいなくなってましたの。学費が払えなくて転校とか、お父様の転勤で転校とか。会社が倒産したって話もありましたわね」
前菜を食べる美織の向かい側で、俺は反射的に椅子をガタンと揺らした。
「会社が倒産……?」
すぐ脳裏に浮かんだのは、佐藤鈴の顔だった。
美織は何の悪気もなく、フォークとナイフを慣れた手つきで扱い、料理を口へ運んだ。
「ええ。半年以上も私を苦しめた女だったから、覚えてますわ。一度「近づかないで」と忠告したのに性懲りもなく私の目を盗んで何度も隼人さんに笑いかけて話をして……私、隼人さんに色目を使うあの女が怖かったの。隼人さんを取られてしまうのが嫌だったの」
「……」
マジか。
目の前で俺に向かって縋るような目で話す女に、俺は驚きを通り越して呆れることさえできなくなっていた。
額に手を当て、まずは落ちとこうとした。
「要するに、美織は俺に女たちが近づかないように脅し、言うことを聞かない女にはおじさんを使って家族ごと俺の前に二度と現れないような仕打ちをした、ということか」
と、視線だけをじろっと美織に向けた。
彼女は「隼人さんっ」と、悲しそうな顔をする。
「脅しとか仕打ちとか、恐ろしいこと言わないでください。私が父に相談すると、いつも「隼人くんとの仲を邪魔する者は成敗してやるから安心しなさい」と言ってくれるんです。だから、佐藤製菓の娘のこともお父様に相談したんですの。なのに、倒産に追い込んでも隼人さんに近づくんだから私の気持ちが落ち着かなくて困ってしまいます」
自らの悪事を飄々とした態度で話して食事を続ける美織に、俺の頭の中で何かが「ブチッ」と音を立てて切れた。