御曹司、家政婦を溺愛する。

俺はナプキンで口元を軽く拭い、席を立つ。
「そんなの、いくらでも道はあるさ。婚約破棄以上に、お前のせいで佐藤やその家族、そして佐藤製菓を潰したことが一番許せない」
「隼人さん、落ち着いて。もうすぐ父が来るわ」
と、美織は俺に怯えているのか、自分の父が早く来るのを待っているようだった。
そんなことも、俺の知るところではない。

「お前は俺の逆鱗に触れた。佐藤を泣かせたこと、一生許されると思うなよ」

そう吐き捨てて、俺はテーブルを離れた。

美織は人目を気にすることなく俺を呼び続けたが、振り向く気すらなかった。


オフィスビルを出て、すぐに関口に電話をする。
「まだ会社にいるだろ。親父を潰すことにした。準備が出来次第、ドバイへ行く。一緒に行くなら来い。わかってると思うが、親父には知られるなよ」

相手は俺の親父であっても、世界に名の知れたホテル王だ。あの男を社長の席から引きずり下ろすためには、綿密な計画が必要だ。

俺が誰からの文句を言われず、百パーセントの体制で佐藤鈴を妻に迎えるためには。
ドバイへ立つ前にやっておかなければならないことがある。

大河内美織が俺の許嫁としての失態は、しっかり見張っていなかった俺にも責任の一端はある。
そして、会っておかなければならない人もいる。

遅くとも月曜の朝には空港に行かなければ。

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