あやかしあやなし
 外はそろそろ夕闇が迫る頃だ。湯を沸かしながら何気なく外に目をやった惟道は、おや、と生い茂る木々を透かし見た。がささ、がささ、と、一点が不規則に揺れている。
 惟道の肩に乗っていた物の怪が、びょーん、と一飛びで外に飛び出していった。何かがこちらに近付いてきているようだ。背の高い木の、かなり上のほうが揺れているところを見ると、人ではない。様子を見に出ていった物の怪が、惟道の視線の先で、じ、と上を見ている。

「もも、何がおる?」

 物の怪に声をかけながら、惟道も外に出た。ちなみにこの物の怪は栗鼠のような外見で、手の平大。大きな目は人よりもよく物を見る。すももが好きなようなので、もも、と呼んでいる。

 惟道の声に、くるりと振り向き、ももはひくひくと鼻をひくつかせた。何か臭うらしい。意識して周りの空気に気を配れば、なるほど何となく鉄臭い。それに気付いた途端、ももが、きぃっと鳴いて飛び上がり、一気に惟道の肩に舞い戻った。それと同時に、ざざざ、と葉が揺れ、高い木の上から何かが落ちてきた。

「……」

 惟道のすぐ前に落ちてきたのは、惟道とさほど変わらぬ大きさの旅人だった。背に、何やら大きな籠を背負っている。

「おぬし、怪我をしておるのか」

 いきなりあり得ないほどの高さから落ちてきた旅人に驚くこともなく、惟道は蹲ったまま上目遣いで己を見る胡散臭げな旅人に言った。なりは旅人だが、現れ方が人ではない。そもそも少し前から見ていた限りでは、木の上のほうを移動してきたようだった。
 だがそんなことには頓着せず、普通に話しかける惟道を、旅人は警戒すらように見つめる。惟道の肩の上で、ももが、ききっききっと鳴き声を上げた。旅人は、ももと惟道を交互に見、次いで惟道の背後に目をやった。
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