あやかしあやなし
「……和尚様は……」

 小さく口を開く。

「中におるが」

 惟道が応えたとき、厨から小童が駆け出してきた。

「惟道ー、大丈夫か? どっか怪我したんじゃ……」

「俺ではない」

「あ、烏兎(うと)じゃないかー」

 小童は旅人を知っているようだ。旅人も、ようやく警戒を解いた。

小丸(こまる)、久しぶりじゃ。和尚様は息災か?」

「うん。ていうか烏兎、何持ってんの。凄い穢れなんだけど」

 そう言っている間にも、そこここからいろいろな物の怪が寄ってくる。穢れに反応しているのだろう。だが大抵の小さい物の怪は、皆遠巻きに烏兎と呼ばれた旅人を見つつ、惟道に寄り添う。単に怯えているものもいるようだが、少し大きな物の怪は、穢れから惟道を守ろうとしているかのようだ。

「……そこもとは?」

 人のようだが、ただの人にしては物の怪に慕われている。ここの和尚もそうなのだが、そのような人間が何人もいること自体があり得ないのだ。現に都では、物の怪というだけで狩られる始末だ。

「惟道はちょっと前からここで暮らしてるんだよ。ちょっと特殊だからさ」

「なるほど」

 さもありなん、と納得し、はた、と烏兎は我に返る。

「そうじゃ、和尚にこれを匿って欲しいんじゃ」

 慌てたように、背負っていた籠を下ろす。籠の底部分は真っ赤である。ももが、きいぃ、と鳴いて惟道の頭の後ろに隠れた。

「どうしたのさ~。穢れはそれだね」

 小丸も、少し距離を取る。物の怪とはいえ小丸は妖狐なので、穢れは苦手なのだ。

「都の陰陽師にやられたのじゃ」

 籠にかけていた布を取ると、小さな黒い塊が見えた。
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