あやかしあやなし
「ほおぉ。これが大江山の鬼の子じゃとな」

 嵯峨野の堂で、羽衣は前に座る鬼っ子をまじまじと見た。と言っても鬼っ子からは羽衣は見えない。
 惟道と小丸と鬼っ子の三人と羽衣の間には、今日は御簾が掛かっている。やはりそうそうおいそれと姿を見せるような狐ではないのだ。
 惟道には初めから御簾などなかったので、もしかすると気分や好みの問題かもしれないが。

「外道丸も、まぁ気の毒な奴よ。おぬしが人を忌み嫌うのも仕方のないこと」

「羽衣は、この者を知っておったのか」

 姿を見せぬということは、それなりの位のもの、ということなのに、惟道は御簾があろうがなかろうが、いつもと同じ調子で羽衣に問う。

「いや、この者は知らぬ。が、大江山の鬼のことはよく知っておるよ。成敗された折りに助けられた姫が孕んでおったこともな」

「あの。大江山の鬼ってのは、元は人だったんですか?」

 もしかしたら巷の噂の通り、鬼というのは比喩で、ただの盗賊だったのかもしれない、と思い、鬼っ子が身を乗り出して聞いた。鬼っ子自身は都で産まれたので、父である大江山の鬼を知らないのだ。

 しばし沈黙が落ちた。

「おぬし、少し耳が尖っておるな。異形なところは、それだけか?」

 御簾内から、羽衣が問う。

「あ、えっと……。角が……小さいけどあります。あとは、歯が少し尖ってるぐらい」

「今はな。都にいたころは、姿を変えることもできておったし、攻撃的だった」

 鬼っ子が改めて己の体に視線を落としながら答えたことに、惟道が補足する。少し鬼っ子が小さくなった。

「気に左右されるんじゃないかしら。あの術者が悪いことばっかり吹き込んでたからあの時は悪い気しか纏ってなくて、それに怒りが加わったら突発的に破壊力も増す、みたいな」

 小丸の更なる補足に、羽衣はなるほど、と呟いた。
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