タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

混乱

 アガタが去り、エアヘル国から結界が消え失せた瞬間。
 大神官、そして新たな聖女となったマリーナは青を通り越して白い顔になり、その場に崩れ落ちた。

「結界が……消えた」
「ああ、何てことっ!」
「貴様ら、私を無視するな……あの出来損ないの平民が破壊神とは、あと結界が消えたとはどういうことだっ」

 問い詰めたのに答えず、呆然として呟く二人を、無視された形となったハーヴェイが怒鳴りつける。
 その声に、ピクリと肩を跳ねさせると――互いに顔を見合わせた後、大神官は渋々と口を開き、マリーナは気まずげに顔を背けた。

「あの者が生まれ、両親と人里離れた森で暮らしていた頃……我々神官は、精霊達の声を聞きました」
「何?」
「精霊を、意のままに操れる『愛し子』が生まれたと……その気になれば、世界を破壊出来る程の力だから、扱いに注意しろと」
「何だと……何故、今までそれを言わなかったっ!?」
「……それは」
「答えろ!」

 そこで言葉を切った大神官に、ハーヴェイが苛立ったように肩を掴んで揺さぶる。親子、いや、祖父と孫くらいに年が離れた王太子に大神官が詰め寄られるのを見て、マリーナは自分だけでも助かろうと身を乗り出した。

「ハーヴェイ様……神殿では、結界の維持をあの平民に何も説明せず、彼女一人に任せていたのですっ。そして自分達はさも働いているフリをして、予算だけを受け取って怠けて贅沢をしていたのです!」
「何!?」
「聖女……いや、マリーナ! お前は、何ということを!?」
「怖ろしい……ですが、暴こうとしても神殿という大組織に、女一人ではとても立ち向かえず……」
「マリーナ、そうだったのか……可哀想に」

 緑の瞳からハラハラと涙を流し、自分の色んな意味での無力さを切々と訴えると、ハーヴェイはまんまと騙されてマリーナを抱き寄せた。
 そんな彼女を、大神官が忌々しげに睨みつける。傍から見ているといっそ喜劇だが、王太子だけは真面目にやっているので、集まった貴族達は下手に口を出せない。
 ……微妙な空気を破ったのは、エアヘル国王だった。

「処罰は、追って沙汰するが……まずは、結界を張り直せ」
「は、はいっ」
「我々に見えないからと言って、今度こそ怠けることは許さん。マリーナ、お前もだ」
「か、かしこまりました!」
「あと、ハーヴェイは……聖女アガタを連れ戻せ。大至急だ」
「私が……ですか?」
「むしろ、お前以外の誰が行くのだ? 仮にも、婚約者だっただろう? 支度をし、近衛騎士達と共に速やかに向かえ。聖女アガタを連れてくるまで、国に戻ることは許さん……以上だ」
「……は?」

 そう、国王が話と場を締め括り、王妃と共に立ち去ると――他の貴族達も己の領土の安否を調べる為、蜘蛛の子を散らすように去り。
 パーティー会場には状況についていけず、青い瞳をまん丸くしたハーヴェイだけが残された。
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