【短】アイを焦がして、それから


ポケットの中から写真を取り出した。少ししわができてしまってる。たった10枚をそばに散りばめた。


この小さな四角の世界でも、彼女はずっとかわいかった。



「あなたのことを、もっと見せてください。まだ近くで見ていたいんです」



正直僕は“リタ先輩”のことを詳しく知らない。真似てるのかどうかなんてわからない。


彼女は、彼女だ。

僕の目にはいつも、“服部まろん”がいた。



「僕にはあなたじゃなきゃだめなんです」



彼女はきゅっと下唇をひっこめた。瞼を伏せ、写真をなぞる。

そしてもう一度、僕と向き合った。

その青い瞳に僕の顔が鮮明に映る。ひどい顔をしていた。真剣になりすぎて強張り、熱を抑えられなくなってる。


不意に彼女は笑った。



「甲斐田は、あたしのこと大好きすぎるね」



涙ぐんで、笑っていた。



「なら、頑張ってるところもそうじゃないところも、あたしがあたしを見つけるところも、ちゃんと近くで見ててもらわなきゃいけないね」



まるで観念したように地面に座り込んだ。折れたスカートの裾を直し、顔を近づける。

僕の耳にソプラノが優しく響く。




───あのね。


───あたしの、本当の名前はね。




え、と一音を漏らしかけた僕の口に人差し指を当て、秘密だよ、と囁いた。

心臓が大きく飛び跳ねる。

うろたえる僕に、彼女はどこまでも楽しそうに表情を崩した。



「“あたし”のこと、ずっと見てて」



不敵な笑みに否応なく見惚れた。

瞬きするたび、かわいくなる。


あぁ、僕はどうして今、カメラを持っていないんだろう。


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