【短】アイを焦がして、それから
写真をかき集め、一眼レフカメラを置き去りにして教室を飛び出した。
PM 16:20。
金曜日、いつもの待ち合わせ場所。
満開になった花壇に着くと、フェンス越しに小さな背中を見つけた。
いた。
いた……!
僕が見間違えるはずがない。
たった数回でも僕はもう彼女以外に焦がれない。
「っは、服部まろん、さん……!」
小さな背中がびくりと震えた。
振り返ることなく逃げようとする。
初めから逃げるつもりならどうしてここに来たんですか。ねえ。言い訳も何もしないなら、自惚れちゃいますよ。
───カシャン……ッ。
フェンスが揺れた。その音に彼女は足を止める。
恐る恐る踵を返すと、つぶらな碧眼を見張った。
「ちょっ、甲斐田!」
僕はフェンスに足をかけた。上に動かすたびにフェンスが揺れる。登るのってけっこう怖い。
「甲斐田……どう見ても運動神経悪いでしょ! やめなよ! 危ないよ!」
バレてた。
そうですよ。体育の成績は良くて「2」です。体を動かすのはあまり得意じゃない。
でもこうしないと逃げられる。
僕は逃がしたくないんです。
自分で壁を越えていきたい。
やっとの思いでてっぺんまで登り、竦んだ足腰を無理やり奮い立たせる。勢いよく飛び降りた。
足裏がじんと震える。ちょっと痛い。
「甲斐田! だいじょ……」
「捕まえました」
心配して駆け寄ってきた彼女の細い手首をぎゅっと握った。弱く引っ張ると、しゃがんでる僕と彼女の目線が重なる。
彼女の、見たことのない顔。
珍しく動揺している。
「頑張るんじゃ、なかったんですか?」
「そ、それは……っ」
「まだわがまま、続けてくれるんですか?」
彼女はぎこちなくかぶりを振った。
「じゃあ……僕のわがまま、聞いてくれますか?」