【短】アイを焦がして、それから



「ふふ。あたしも浴びようかな」

「えっ」



ホースを上にあげた。

まるで雨のように雫が降り注ぐ。太陽の光に反射してひと粒ひと粒がまばゆくきらめく。花弁を濡らし、髪の毛を伝い、彼女を輝かせる。



「あー、きもちい」



冗談ぽく一笑する彼女を逃すまいと撮影態勢を整えた。シャッターボタンの上に添えた人差し指に力をこめる。


額にぺたりとはりついた短い前髪。

雫を転がす長いまつ毛。

うしろ髪の先を束ねた細い指。

湿った肩とうっすら跡の見えるキャミソールのひも。


そして。

どこか無理してるような、笑い方。


───カシャッ。


なんて。

なんて、綺麗なんだろう。


なんで欲が生まれるんだろう。


こんなに近くにいるのに、もっと、もっと近づきたい、なんて。



「何か、あったんですか……?」



欲のせいだ。

彼女の心に踏み込んでしまった。

ちゃんと脱いだ靴をそろえたつもりだけれど、彼女には土足も同然だった。


ごめん。
でももう帰れない。

靴は脱いじゃったから。


だから、帰さないで。

どうか、返して。



「は、ははっ」



渇いた笑みをこぼして、彼女は僕を見つめた。

腕をおろし、ホースの先端がだらりと下がる。足元が水浸しになっていく。


余韻の雫がぽたりぽたり舞い落ちる。


うす桃色の唇はゆるりとほころび、眉尻がへにゃりと垂れる。

やっぱりどこかぎこちない。



「甲斐田はするどいなあ」



初めて“服部まろん”と向き合ってる。

そんな気がした。


アイドルじゃない。

高校生の、まだあどけない少女と。


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