【短】アイを焦がして、それから
ときめく、の本当の意味が、わかった。
「リタ先輩って知ってる?」
リタ───って、あの、人気絶頂のソロアイドルの?
デビュー曲はミリオンヒット。その後も発表した曲は全てオリコン1位。先日リリースした新曲は初動売上がハーフミリオンを突破。
最近は女優としても活躍し、圧倒的支持を得ているカリスマ。
ほんの4年前まで「オンナノコ*ソルジャー」に在籍していた。当時はセンターを務めていたという。「オンナノコ*ソルジャー」の名前が全国区に広がったのもリタの影響だ。
彼女、服部まろんも、リタに魅了された一人で、リタを追いかけアイドルになったと、ファンの友だちから熱弁されたっけ。
いわく、服部まろんはリタにアイドルとして、リタから引き継いだセンターとして認めてもらえるように頑張ってる、そのひたむきな姿が実に愛らしいのだ、と。
愛らしい、のところでは食い気味に「それな」と頷いた。
「リタ先輩に言われたの。まだ認められない、あなたはあたしを追いかけすぎだって」
平然を装って、彼女は蛇口を閉めた。
動きやすそうなスニーカーは水分を吸収し、少し重そうだった。
「リタ先輩が好きで、憧れてきた。一回失敗しちゃったけど、また初めからやり直して頑張ってきた、のに……それじゃあだめなんだって」
水に濡れた顔。アイラインを引いた目尻から綺麗な輪郭へと雫がなぞる。
あれが涙だったらどうしよう。
戸惑う。湧き上がる感情が沈んだものばかりではないことに、また、戸惑った。