雨は君に降り注ぐ
「悪かった。今言ったこと、忘れてくれ。」
父が言った。
「結希は、結希の好きなように生きればいいと思う。俺が口を出すことじゃないな。」
私は黙っていた。
なんと返せばいいのか、分からなかった。
「ただ、何か困ったことがあったら、迷わず連絡しろよ。」
困ったこと。
ストーカー。
黒いフードの人物。
私は、あの手紙のことを思い出した。
『素敵なアパートだね。』
あれを受け取った時、私は通報しようと考えた。
それをしなかったのは、母に何やらグチグチ言われることを恐れたからだ。
でも、もう母は、この世界にはいない。
そもそも母は、何やらグチグチ言うような人ではない。
それは、私の勝手な思い込みだ。
だったら、今なら、通報できるんじゃないか。
父に、ストーカーのことを話せるんじゃないか。
でも、
「うん。長期の休みの時とかは、帰省するよ。」
父に、心配をかけたくない。
ストーカーの件は、黙っていよう。
「ああ。結希が帰ってきたら、美里も喜ぶと思う。」
父は、寂しそうに微笑んだ。
その笑顔まで、一ノ瀬先輩に似ていて。