雨は君に降り注ぐ

 翌日。

 私は、何事もなかったかのように、いつも通り青葉大学にやって来た。

 昨晩は、震えながらどうにかやり過ごした。

 通報してもよかったのかもしれない。
 今の私は、間違いなくストーキング被害者だ。

 前に通報をためらった理由。
 それは、母の存在があったからだった。

 なら、今なら、通報してもかまわないんじゃないか。

 だが、そういうわけにもいかない。

 このことを父に知られたら、多大なる心配をかけてしまうことなど、目に見えていた。
 父に心配をかけたくない。

 このストーキングだって、今のところは、大した被害でもない。
 時がたてば、いつの間にか終わっていた、ということもあると思う。

 だから私は、もう少しだけ、様子を見ることにしたのだ。

 この時の判断を、そう遠くない未来に後悔することになるなんて、全く考えもせずに…。



「あ。」

 講義室へ向かう途中、3階の図書室の前あたり。
 私の前を歩く人に、見覚えがある。

 それもそうだ。
 あの後ろ姿は絶対に、一ノ瀬先輩なのだから。

 声をかけようと思って、一瞬ためらう。

 あのキスをした夜以来、先輩と顔を合わせるのは今日が初めてだ。
 なぜか気まずい…。

 あの夜のこと、先輩はどう思っているのかな。

 話しかけるのが、少し、怖い。

 でも。
 目の前に好きな人がいるのだ。
 話しかける理由なんて、それだけで充分だ。
< 195 / 232 >

この作品をシェア

pagetop