雨は君に降り注ぐ
翌日。
私は、何事もなかったかのように、いつも通り青葉大学にやって来た。
昨晩は、震えながらどうにかやり過ごした。
通報してもよかったのかもしれない。
今の私は、間違いなくストーキング被害者だ。
前に通報をためらった理由。
それは、母の存在があったからだった。
なら、今なら、通報してもかまわないんじゃないか。
だが、そういうわけにもいかない。
このことを父に知られたら、多大なる心配をかけてしまうことなど、目に見えていた。
父に心配をかけたくない。
このストーキングだって、今のところは、大した被害でもない。
時がたてば、いつの間にか終わっていた、ということもあると思う。
だから私は、もう少しだけ、様子を見ることにしたのだ。
この時の判断を、そう遠くない未来に後悔することになるなんて、全く考えもせずに…。
「あ。」
講義室へ向かう途中、3階の図書室の前あたり。
私の前を歩く人に、見覚えがある。
それもそうだ。
あの後ろ姿は絶対に、一ノ瀬先輩なのだから。
声をかけようと思って、一瞬ためらう。
あのキスをした夜以来、先輩と顔を合わせるのは今日が初めてだ。
なぜか気まずい…。
あの夜のこと、先輩はどう思っているのかな。
話しかけるのが、少し、怖い。
でも。
目の前に好きな人がいるのだ。
話しかける理由なんて、それだけで充分だ。