【短】今夜、君と夜を待っている。
適当な椅子に座らされて、窓の方を向く。
廊下を向いているとぺんたさんが微妙に見えてしまうから。
「化かされたらどうしよう……」
「あの狐半目だったから大丈夫」
「なにその基準……」
「目全開の狐も知ってるけど、わかりにくいところにあるから佐和が見つけることはねえよ。四匹見つけたらやばいってうわさじゃなかったか?」
「なにそれ、知らない。元祖ぺんたさんって何匹いるかわからないんじゃないの?」
「いや、よく知らねえけど」
よく知らないなら言わないでほしかった。
わたしが見つけることはないような場所はともかく、一番目撃されてる敷地の外壁と体育館のぺんたさんはもう見てしまっているのに。
「大丈夫だって」
「だから、何の根拠もな……」
ひとつ空けた椅子に座る高平くんと目が合って、言いかけた言葉が途切れた。
さっき、教室のドアの前でぶつかったときよりも柔らかな目元で微笑む高平くんから顔を逸らせなくて、くちびるを噛む。
「佐和」
「な、なに?」
「俺も好き」
吹き出しに囲まれた決まったフォントの文字でも、電波に乗せたよく似た偽物の声でもない。
こんなに近くで高平くんの声が届く。
「あ……昨日の、曲?⠀わたしも好きで……失恋ソングで、身の丈に合ってるっていうか、お似合いというか……」
「は?」
凄みを利かせた声音にびくっと背筋が強ばる。
そうだ。高平くんってそもそもこういう人なんだから、いちいち驚いていられない。
生身の高平くんと顔を突き合わせて話すのはこれがはじめてだということ、昨日の今日だと意識してしまえば余計に緊張してしまう。