【短】今夜、君と夜を待っている。
「本当は……って。本当本当って、そればっかだけどさ、だけど本当に、佐和と話したかった」
「どうしてわたしだったの?」
「そんなん、わかるだろ」
わずかに色付いた頬と、照れたような表情。
ちょっとだけ、気になってた。
たまたまわたしをやり取りの相手に選んで、それで特別な感情が芽生えたのか、それとも最初からわたしだったのか。
どちらでもきっと変わらずに嬉しかった。
けれど、わたしだったからと言ってもらえた方がずっと、嬉しくなる。
「去年からずっと好きだった」
「去年……?⠀クラス違ったし、ごめん、高平くんのこと知らなかったよ」
「覚えてない、か」
去年、去年、と記憶を遡るけれど、高平くんに繋がるようなことは何も引っかからない。
ぐるぐると頭を悩ませていると、高平くんが自身の髪を避けて耳を露わにした。
「正門前の風紀チェックで、項目が頭髪と制服だけだからってピアスは見逃してくれたこと、覚えてない?」
「風紀委員だったけど……覚えてない。ピアスだけ見つけるって、そんなことできるかな」
「だけじゃなくて。頭髪も服装も引っかかって、ついでにピアスも見つかったやつ」
「え、ええ……あ!⠀髪!⠀茶色じゃなくて金だった!?」
「そう、それ」
やっと思い出してくれた、と笑う高平くんには申し訳ないけれど、ぼんやりとしか覚えていない。
髪だけがやたらと鮮明に記憶に残っていて、肝心のピアスや制服の着こなしはすっぽ抜けているし、顔だってへのへのもへじで想像してる。
でも髪の毛は、綺麗な金色で、完璧な校則違反で、よく覚えてる。