【短】今夜、君と夜を待っている。
「似合ってるって、言ってくれたろ」
赤いピアスに触れながら、高平くんがいうから、何となく思い出してくる。
他の誰も身につけていない色を堂々と晒している姿、そして何より、あのころから高平くんは真っ直ぐに胸を張って歩く人だった。
校則違反のペナルティだってあるのに、その毅然とした態度と姿勢に、その刹那だけ確かに目を惹かれた。
自分でも消してしまっていた点が点と繋がればもう、愛しさになって混ざっていく。
「曲、じゃなくて」
好きになったら、伝えられるよりも伝えたいって気持ちが先走る。
恋を知らないうちは、告白はするよりもされたいって思っていたのに。
「高平くんが好きです」
自信なんていつまでも、ずっと、持てないままで。
春乃のお膳立てがあってようやくあるべき場所に収められた、まだ形の曖昧な想いだけれど。
でも、確かに、今目の前にいる高平くんが好き。
いつか、他愛ない話の合間に、朝がきらいだときかせてくれた高平くんも。
夜に少しでも長くと、同じ時間を過ごしたがった高平くんも。
ぜんぶが高平くんで、たとえるのなら、正面から見たときも横から見たときも、見上げたときも、背中も好きだってことなのだと思う。