【短】今夜、君と夜を待っている。
「ところでさ」
ポケットに携帯だけ持ってきていた高平くんが画面を見せてくれた。
なんの変哲もない青空のロック画面。
「この階、チャイムとか放送流れないって知ってるか?」
「えっ!?」
白い雲と重なって時間の文字がよく見えなかった。
高平くんの携帯と、それからわたしの携帯でも時間を確認して現実から目を逸らす。
「遅刻だなあ」
「来てるのに……!⠀ていうか高平くんはカバン置いてるから遅刻じゃないし、わたしだけ遅刻……」
「佐和も証人がいるから大丈夫」
「あ、春乃。と、和泉くん」
春乃に教室から押し戻される直前に何人かわたしの姿は見ていたはず。
それなら、と息を吐いたとき、高平くんがそうじゃなくて、と片眉を上げた。
「俺を追いかけていったって、たぶん教室にいたやつらみんなわかってるんじゃねえかな」