パトリツィア・ホテル



その日の試験の帰り道。


「今日の数学。咲ちゃんは全部できたろ?」


新宮くんは白い歯を見せてにっこりと笑った。


「えっ……う、うん。埋めるだけは全部埋めたかな」


私は彼の爽やかな笑顔に見惚れながらも、しどろもどろ答えた。


「でも、ゆうちゃんも全部できたんでしょ。何てったって、学年トップの超秀才君なんだから」


やや皮肉を込めて言ってやったら、彼は少しばつが悪そうに首を横に振った。


「いいや。俺も二問ほどできなくて、飛ばしたよ」

「うそ! ゆうちゃんでも!?」


信じられなかった。まさか学年トップの彼にも解けない問題があっただなんて。


「そう。みんなも言ってたけど、解き方を身につけてるだけじゃできなかったんだよ、今日の問題は。でも、咲ちゃんはちゃんと三角関数を理解してたからできたんだ」

「ふーん……」


そんなものなのかな。

とは言っても、今日の数学も全部埋めることができたってだけで。

点数ではきっと、私は彼にボロ負けしてるんだろうけど。


そんなことを考えている私の横で、彼は薄っすらとオレンジ色に染まり始めている空を見上げた。


「試験が終わったら……来週はもう、夏休みだな」

「ええ、そうね」


私もぼんやりとその空を眺めた。

そう……もう少しで、夏休み。

高校生活初めての……そして、人生で初めて彼氏ができてから、初めて迎える夏休みなんだ。
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