パトリツィア・ホテル



「勇人、ごめん。ほんっと、ごめん」


家を出た私は彼に手を合わせて謝り倒した。

だけれども彼は少しも気にしていない様子でニッと白い歯を見せた。


「いいって、いいって。おかげで咲のセクシーな寝顔が見れたし、お母さんの美味しい朝食を御馳走になったし」

「いや、セクシーな寝顔って……」

「そりゃあもう、口をパカァと開けて唾液をビチャっと出して、セクシーだの何のって……」

「キャアア、やめて、やめてぇ! 恥ずかしすぎる!」


夏休み初日から金切り声を上げる私と、大笑いする彼の賑やかな声が大通りに響き渡った。





「ところで。沖縄では、どのコースを回ろう?」


旅行会社への道すがら、彼はさっと話題を変えた。


「ふぇ……全然、決めてない」

ダメージから回復し切れない私は、考えがまとまらなかった。


「そっか。青の洞窟は外せないし……海でスキューバダイビングもしたいな」

「スキューバダイビングかぁ……いいねぇ」


沖縄の青い海に潜って、色とりどりの美しい珊瑚礁を見渡す。

想像しただけで素敵でロマンチックで……

私は今朝の大失態を忘れて、すっかり気を取直した。
< 144 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop