パトリツィア・ホテル
「いえ、でも……私、本当に何もしていませんので」

「そうは言っても、君のアイディアを使わせてもらったこちらとしては、それ相応の報酬を払わないわけにはいかないんだ。君はお金は欲しくないのか?」

「それは……欲しいです。ただ……」


私は社長の瞳をギュッと見つめた。


「私にとってはお金は……もっと、大変な想いをして稼ぐものなんです」

「ほう……大変な想い?」

「はい」


私はうなずいた。


「私のお父さんは、私が小さい時から朝から晩までずっと働いて、私とお母さんを養ってくれています。それに、お母さんは生活費を切り詰め、切り詰めてやっと私を彩林館高校に行かせてくれている……私の一番、身近な両親がそんなに苦労しているのを見てきたから。私が急にこんな大金をもらってしまったらいけないって思うんです」


社長は腕を組み目を閉じて私の話をうなずきながら聞いていて……

しかし、すっと目を開けて口を開いた。


「そうか。しかし君はもう、パトリツィアの一員……以前までとは立場も違うんだぞ」

「でも……たとえパトリツィアの一員になったとしても。もし大金持ちになったとしても、このことは決して忘れてはいけないと思うんです。でないと……きっと、幸せなんて、私達の腕の間をすり抜けて、何処か別の所に行ってしまう」


つい天下の社長様の前だということも忘れて、私は必死に話した。
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